私は化学系の大学院修士課程を卒業後、新卒で化学メーカーに就職しました。
入社して6年経った頃、部署内では仕事の成果を評価していただいてはいましたが、停滞感も感じていました。
「もっと技術者として成長したい」という思いが強くなっている。
そんな時に出会ったのが、技術士という資格です。
技術士は国家資格であり、試験では化学技術者としての専門知識や、プロジェクト運営経験が問われます。
試験勉強、そして取得後の活動、それぞれの場面で成長させてくれました。
この記事では、化学メーカー社員にとって、技術士取得がおススメである2つの理由を解説します。
目次
技術士はどんな資格か
技術士試験の概要
技術士は理工系最難関の国家資格です。
専門領域に応じて、化学、生物工学、機械、電気電子、建設、情報など21の部門に分かれています。
試験では技術的な専門知識だけでなく、リーダーシップやマネジメントなどの業務・プロジェクトマネジメント能力が問われる点が特徴です。
試験は1次試験、2次試験(筆記+口頭)から構成されています。
合格率
1次試験の合格率は例年40%前後。
2023年の2次試験の部門全体の合格率は11.8%です。
化学部門の合格率は比較的高く18.6%ですが、やはり高難易度の資格と言えます。
技術士取得のメリット
取得難易度が高い資格ではありますが、化学業界においては、必ずしも収入増加などの金銭的なメリットがあるわけではありません。
技術士は名称独占資格です。
弁護士などの業務独占資格と異なり、技術士でないと実施できない業務はありません。
技術士取得が直接的に業務内容を広げてくれるわけではないため、金銭的評価につながらないのです。
実は建設業界では技術士の取得が必須となっている事業・分野が存在します。
その様な仕事であれば、収入増など金銭的なメリットがあります。
化学メーカーと技術士
技術士取得を推奨している化学メーカーも多く存在します。
例えば、以下の化学メーカーは、社内に技術士会が存在します。
- 帝人
- 日本火薬
- AGC
- UBEグループ
- 旭化成
技術士の評価ポイント
技術士資格は、技術者としての能力を高めるために利用できます。
技術士であることは、自己研鑽を続けている技術者であることを示しているんですね。
企業は、この学習を継続的な学習を評価しています。
私の所属する企業も、技術士試験に合格したこと自体よりも、技術士取得を通じた能力向上、その後の継続研鑽を評価しています。
化学メーカー社員に技術士がおススメの2つの理由
技術士は受験対策と、取得後の両面で技術者を成長させてくれます。
ポイント
- 試験勉強による成長
- 技術士取得後の継続研鑽
試験勉強による成長
試験勉強では、主に4つの点で成長につながります。
- 専門知識の取得
- 業界の背景知識の取得
- 業務の進め方
- 文章によるコミュニケーション
専門知識の取得
技術士試験は、合格に向けた勉強によって専門知識を整理することができます。
例えば技術士2次試験の化学部門では以下のような問題が出題されます。
例題
共役について構造式などの図を使って説明し、π共役によって発現される物理化学的性質を述べ、生体あるいは化学製品でどのように応用されているか答えよ。
(令和4年度 化学部門 有機化学及び燃料 2-1-4より抜粋)
過去問練習により、業務と関係性が強い専門知識の習得が可能です。
普段の業務から、技術的根拠をもって取り組むことが対策につながります。
業界の背景知識取得
また、以下のような出題もあります。
例題
~中略~
化学産業が中心となって異業種・異分野との協業を推進することが必要である。
~中略~
技術者としての立場で、多面的な観点から3つの課題を抽出し、それぞれの観点を明記し説明せよ。
(令和4年度 化学部門 1-1より抜粋)
技術士試験では、部門全体に関わる事項について、技術者の立場から解答する問題が出題されます。
この問題では、異分野との協業経験があるほど書きやすいですね。
答案作成のスキルを高めるだけでなく、技術士試験で問われた業務に挑戦すること自体が、技術士合格への近道になります。
業務の進め方
例題
他企業や外部機関との間で、研究・合成・製造等の技術的内容を含む委託又は受託を行う際に、調査、検討すべき事項について説明せよ。
(令和4年度 化学部門 2-2-1より抜粋)
この問題では、業務におけるリーダーシップやマネジメントについて問われています。
解答のコツは、自身の業務を棚卸し、リーダーシップやマネジメントの文脈で整理をすること。
上位の技術者として活躍するためには、科学技術的な専門知識を持っているだけでは不十分なんです。
- 多くの関係者と利害の調整を行うこと
- ヒト・モノ・カネなどの資源を分配すること
プロジェクトマネジメント技術が、業務を推進させるためには要求されます。
この様な問題に解答することで、「技術士的な」考え方が身に付きます。
実際の業務においても「技術士的に」行うことで、優れた技術者として、仕事を進めることができるようになるんです。
文章によるコミュニケーション
技術士試験の対策を行うことで、業務にも有用な文章力を鍛えることができます。
技術士2次試験は筆記型の試験です。
1日で、600字詰めの原稿用紙を9枚も書く必要があります。
重要なのは、問われていることを簡潔にまとめる技術です。
書き言葉を用いたコミュニケーションが、働くうえでは非常に重要です。
実際、技術報告書、企画書、メールなど、文章で表現したり、相手に動いてもらったりすることは多いですよね。
たしかに、コミュニケーションと聞くと口頭での表現力や、話のうまさに注目しがち。
しかし、とくに技術系の仕事では、文章での表現力の方が重要です。
読んだ人に正確に情報を伝えるためには文章力が必須。
技術士試験は、技術者にとって重要な文章力を鍛えてくれます。
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参考【キーワード学習はしない】1回で技術士2次試験に合格した勉強法
技術士取得後の継続研鑽
試験対策のみならず、取得後においても成長させてくれるのが、技術士の魅力の一つです。
技術士は、合格後も継続研鑽をすることが法律で課されています。
もちろん、自己学習を進めることでも良いのですが、技術士会内のコミュニティに属して、学習を進めることがおすすめです。
例えば以下のようなコミュニティが存在します。
コミュニティの例
- 化学部会
- 化学部会 若手の会
- 青年技術士支援委員会
これらの会は、定期的に例会を開催しています。
以下の2点が挙げられます。
- 情報の入手
- 他ではできない経験
情報の入手
例えば、大学の先生や企業内技術士の方の講演が開催されています。
先端の技術や、企業での応用研究など、自社で仕事をしているだけでは得られない情報を学ぶことができます。
他ではできない経験
化学部会若手の会では、理科教室の開催やサイエンスアゴラへの出展を行っています。
「サイエンスアゴラ」はJSTが主催し、化学と社会がつながることを目的に、毎年開催されているイベントです。
技術士は、高度な科学技術を公益のために使用することが求められていますから、ぴったりの活動だと思います。
これらの会に参加する資格を持つのは、技術士(あるいは試験合格者)のみです。
参加されている技術士の方々は、企業内で活躍されている方が多く、とても刺激的です。
技術士となることで、彼らと学ぶ、あるいは社会活動を行うことができます。
他では得られない経験であり、自身を高めてくれます。
技術士を目指そう
技術士が、自身を成長させてくれる資格であるということを解説しました。
私は化学メーカー入社6年目に技術士試験の受験を決意し、無事合格することができました。
試験勉強、および合格後の活動を通じて、技術者として成長できていることを実感しています。
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参考技術士試験の勉強スケジュール 一発合格時の勉強時間は?
化学メーカーなど、製造業の技術者として働いている方であれば、技術士への挑戦は非常におススメです。
ぜひチャレンジしてみてください。