有機化学は、化学系研究室の中でも産業応用しやすい学問領域であり、専門知識を生かした就職に向いている分野です。
就活では有利ではあっても、不利になることは少ないと思います。
私(@okamotobiblio)自身、有機化学の研究室に所属して就活を行い、希望が叶って有機合成の仕事をしています。
しかし会社で有機化学を行うにしても、それが化学メーカーなのか、製薬企業なのかは重要ですよね。
学部生、大学院生の皆さんはとても気になると思います。
また、ITなど有機化学を使わない分野に就職したい方もいるはず。
化学系以外の会社に就職できるかどうかも、知りたいですよね。
この記事では、有機化学系の研究室が、ホームページ上で公開している卒業生の進路データをまとめました。
この記事を読むことで、有機合成研究室出身者の進路の参考になります。
目次
どんな業界に就職しているか
今回、有機化学系の10研究室を調査しました。
その結果、有機合成経験者の就職先は、主に7種(+その他)でした。
- 化学
- 製薬
- 自動車
- 農薬
- 石油化学
- 化粧品
- IT
- その他
なお、化学+農薬など、両方の部門を持つ企業は多いですが、その場合は化学企業として集計しています。
- 住友化学(化学+農薬)→化学
- 東レ(化学+医薬品)→化学
- 花王(化学+化粧品)→化学
また、タイヤや車載関連の製造業は、まとめて自動車企業として表現しています。
出光興産などの石油化学企業は、就活生は「化学企業」とは考えずに就職すると判断し、石油化学としました。
就職先の傾向
最も多いのが、化学メーカーです。
どの研究室の学生も、概ね半数程度は化学メーカーに就職しています。
全体では、50%以上が化学メーカーに就職していました。
また、農学や薬学に比べて、理工系の研究室ほど、化学メーカーに就職する傾向がありました。
次に多いのが製薬企業です。
こちらは、薬学部、農学部の研究室出身者の方が、理工系の研究室よりも多い傾向がありました。
3番目に多いのは自動車(関連)企業です。
有機化学はあまり関係のない分野ではありますが、多くの学生が就職先に選んでいました。
特に、工学部出身者が自動車企業に就職している傾向がありました。
IT系は、想定していたよりも少ない結果となりました。
理工系の学問知識と、IT分野の親和性は高いため、IT企業への就職者は比較的多いと想定していました。
しかし、大手のIT企業へ数人就職しているのみであり、ベンチャー企業へ就職した人は今回はいませんでした。
化学系の学科の学生は、物理などと比較し、プログラミングを行っている経験が少ないため、IT系に対する抵抗感があったのかもしれません。
また、化学商社への就職も少数でした。
化学メーカー→化学商社へと就職した友人が私には数人いるため、新卒でも比較的多いと考えていました。
しかし、新卒では多くの人が化学メーカーに就職することがわかりました。
研究室・学部ごとの就職先
今回調査した10個の研究室は、すべて「有機化学」を軸にした研究をしています。
しかし、就職先は学部や研究分野によって、異なる傾向を示してます。
今回は5つの研究分野に分けて、それぞれの代表的な研究室出身者の就職先を集計しました。
なお、入手可能な直近5年分のデータを使用しています。
- 理工系・有機合成
- 理工系・機能性分子
- 理工系・工業化
- 薬学・有機合成
- 農学・有機合成
私の経験をもとに、全合成系からの就職先をまとめていますので、こちらも参考にしてください。
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参考【企業研究者が解説】全合成研究室からの5つの就職先
理工系・有機合成
理工系・有機合成の研究室として、2つの研究室を選びました。
慶応義塾大学 基礎理工学専攻 有機合成化学研究室
天然物合成と、新規反応の開発を行っている研究室です。
データを見ると、化学メーカーへの就職が圧倒的に多いですね(64%)。
化学以外は、色々な業界に就職している点も特徴です。
京都大学 工学研究科 天然物有機化学分野
「天然物」という名前がついていますが、反応開発がメインの研究室です。
こちらの化学メーカーへの就職割合も、57%と高い数字となっています。
その他の就職先としては、アカデミアなどがあります。
理工系・機能性分子
合成した化合物の「機能」に着目した研究を行っている、3つの研究室を選びました。
工学系の研究室では、該当する研究室が多いと思います。
名古屋大学 工学研究科 超分子・高分子化学
らせん分子を合成し、その機能を研究している研究室です。
就職先としては、化学メーカーが67%と多く、製薬企業への就職は少なくなっています。
工学系の特徴として、自動車や、機械、セラミックスなど(その他として集計)、有機化学を使わないであろう分野への就職も多いですね。
大阪大学 工学研究科 ソフトナノマテリアル研究部門
有機化学の技術を基盤に、有機エレクトロニクスへの応用を目指した研究を行っている研究室です。
自動車関連への割合が多く、全体の30%を占めています。
奈良先端大学院大学 物質創成科学領域 機能有機化学研究室
π共役系分子の研究を行っている研究室です。
奈良先端大は学部を持たない大学院大学。
つまり、”外部受験者しかいない”研究室ですね。
この状況が就活に影響を与えるか知るために、調査研究室としてピックアップしました。
外部受験を考えている方は、こちらの記事を参考にしてください。
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参考【企業視点】旧帝大院に外部進学するなら志望動機を考えよう
こちらの研究室は、年代ごとの就職先のデータは得られませんでした。
また、複数人が就職しているかどうかもわかりませんでしたので、実際の総数は異なる可能性があることも、ご了承ください。
奈良先端大の機能有機化学研究室では、化学メーカーへの就職が圧倒的に多いことがわかりました(80%)。
奈良先端大の学生は、外部進学先として有機化学の研究室を選んでいます。
就職においても、学生時代の経験を生かしたいと考えている人が多い可能性がありますね。
理工系・工業化
有機化学の産業応用を志向した研究室を1つ取り上げました。
大阪大学 基礎工学研究科 触媒設計学研究室
グリーンケミストリーの達成のために、触媒開発を行っている研究室です。
プラントでの反応を想定した、産業応用研究を行っています。
こちらの研究室は、博士卒のデータのみ得ることができました。
化学メーカーが多いですが、製鋼など、プラント開発分野への就職が多いのが特徴です。
薬学・有機合成
全合成系と、反応開発系の2種の研究室を取り上げました。
やはり、製薬企業への就職が、他の学部よりは多くなっています。
静岡県立大学 薬学研究科 医薬品製造化学講座
天然物の全合成研究がメインの研究室です。
今回の調査で、製薬企業が最も多い就職先となっているのは、こちらの研究室だけでした(52%)。
また、薬局や病院など、薬剤師として就職している人が多いのも特徴です。
東北大学大学院 薬学研究科 合成制御化学分野
反応開発が最大の強みですが、全合成やケミカルバイオロジーなどの研究も行っている研究室です。
化学メーカーが最も多いですが、製薬企業への就職も多くなっています。
静岡県立大と比較すると、アカデミアへの就職(留学)が多いのも特徴です。
農学・有機合成
全合成系の2つの研究室を取り上げました。
他の学部に比べると、農薬系への就職が多くなっています。
また、食品メーカーも多いかと予想しましたが、今回の研究室では食品メーカーへの就職者はいませんでした。
東北大学 農学研究科 生物有機化学分野
全合成研究を行っている研究室です。
一見、農薬業界への就職は少ないですね。
しかし、実際には、住友化学や日産化学など、農薬が強い化学メーカーへの就職が多くなっています。
したがって、やはり農薬系への就職が強いと言えそうです。
名古屋大学 生命農学研究科 生物有機化学研究室
こちらも、農学系の全合成研究を行っている研究室です。
農薬系と製薬系の就職が多い結果となっています。
農学部は、全合成と合わせてケミカルバイオロジー研究を行っている研究室も多いです。
ケミカルバイオロジーの経験という強みを生かすことで、製薬企業への就職も多くなるのかもしれません。
化学メーカーへの就職が最も多い
有機化学系の研究室出身者が、どの業界への就職が多いのかを調べました。
最も多いのは化学メーカーですが、製薬企業や自動車、農薬など、多くの製造業に就職しています。
一方で、今回調査した研究室では、ITや商社など、非製造業への新卒での就職は少ない結果となりました。
大学での学び・経験を就職後も生かしたい、と考えている人が多いのだと思います。
ポイント
- 化学メーカーへの就職が最も多い
- 工学部系は自動車業界への就職が多い
- 薬学部は製薬業界への就職が多い
- 農学部は農薬業界への就職が多い
- 全体を通して、製造業への就職が大半
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