この記事からわかること
- 「演習で学ぶ有機反応機構」を使った勉強方法
- 目的に応じた使い方
「演習で学ぶ有機反応機構」は有機合成を学ぶ・研究する大学生、大学院生にとって非常に価値の高い問題集です。
化学メーカーで有機合成を行っている私(@okamotobiblio)自身、この問題集のおかげで有機化学への知識が深まりましたし、有機化学への自信も得ました。
一方で、難易度は高く、挫折してしまう人が多いのも事実です。
この記事では、「演習で学ぶ有機反応機構」の使い方を解説します。
どのように使えば、挫折せずに内容を身に着けることができるのか、私が実践した方法を紹介します。
目次
「演習で学ぶ有機反応機構」は何が良いのか
大学・大学院レベルの有機合成を学ぶ方法は多くあります。
「ウォーレン有機化学」や、「天然物の全合成」なども良い本で、私自身これらの本で勉強したことがあります。
しかし、有機合成を深く知るために1冊を選ぶとしたら、私は「演習で学ぶ有機反応機構」を選びます。
その理由は、有機反応をより深く知ると同時に、「身に着ける」ためには、問題演習を通じて反応を学ぶことが効率的であるからです。
「演習で学ぶ有機反応機構」は問題演習のために十分な問題数と質を兼ね備えています。
大学院入試から、企業や大学で有機合成を研究するための実力をつけるという目標を達成するために適した問題集なのです。
有機合成を学ぶことは、反応を知ることです。
反応機構の知識は、有機合成の多くの分野に役立ちます。
全合成の研究の場合、例えば目的の反応が進行しなかった場合、得られた化合物から反応機構を予想することで、反応の問題点を考察することができます。
実際、私も副反応の反応機構の考察から、目的物の収率を高めたことが何度もあります。
反応開発の研究ではなくても、反応機構を学ぶことは非常に重要です。
そして、反応機構を学ぶためには、「演習で学ぶ有機反応機構」が最も適しているのです。
ポイント
- 反応開発の基礎勉強に役立つ
- 全合成の反応ルート設計の勉強に役立つ
目的別の使い方
「演習で学ぶ有機反応機構」は難易度別にA~C問題に分かれています。
目的によって、解くべき問題は異なります。
この記事で紹介する勉強法の目標は、A~C問題どの問題を問われても、反応機構を説明できることです。
したがって、各目的に応じて、問題を完璧に解けるようになることを目指しましょう。
大学院入試
A問題を正確に再現できればOKです。
たしかに、「演習で学ぶ有機反応機構」には、B問題まで大学院入試対象と書かれています。
しかし、院試対策としてはA問題を解ければ十分合格できます。
他大学の院試を受ける方は不安に思うかもしれませんが、B問題まで手を広げるのではなく、A問題を全て解けるようになる事を優先させましょう。
大学院修士の学生
B問題を正確に再現することを目指しましょう。
有機合成系の研究室の修士の学生で、B問題をすべて解くことができれば、有機化学の理解は学年でトップクラスだと思います。
私の会社には、「演習で学ぶ有機反応機構」を出版した研究室の出身の方もいますが、その人もB問題が解ければ有機合成の理解力は十分と言っていました。
修士課程の間に、B問題を全て解けるようになることを目標にするのが良いと思います。
有機合成のプロ
有機化学のプロフェッショナルを目指す人は、C問題を含めた、すべての問題を再現できることを目指しましょう。
特にC問題は、天然物合成の骨格が多く入ってくるので、より実践的な知識が得られます。
新規合成ルートを組み立てるのにも、役立つ知識となります。
ちなみに、福山先生後継の横島先生(名古屋大学)の研究室HPでは、研究室のセミナーで取り上げた最新の問題が公開されています。
最新論文の反応機構も学べるので、C問題をやり終えてさらに学びたい方は、そちらで勉強するのもおススメです。
問題集の使い方
どの問題を問われても、反応機構を説明できる状態を、この記事では目標としています。
勉強のポイントは、2点あります。
ポイント
- 繰り返して覚える
- 人に説明すように読み上げる
繰り返して覚える
問題と接する回数を増やすことで、反応機構を丸々覚えてしまうことが効率的な勉強法です。
そのため、まずは自力で解こうと考えるのではなく、すぐに解答を見て、内容を覚えることを目指しましょう。
もちろん、最終的には何も見ずに解答を再現できるようになることが重要です。
しかし、初めから自力で解くには時間がかかりますし、挫折の確率が高まってしまいます。
「演習で学ぶ有機反応機構」は難易度の高い問題集ですので、まずは自力で解くのではなく、解答を覚えるというスタンスで使うことをおススメします。
覚える際は、1回で覚えようとするのではなく、何度も繰り返すことで反応を理解・暗記するまで繰り返しましょう。
私は、10回を目安に復習していました。
10回復習すると、難しい問題でも、反応機構の矢印を再現したり、反応の説明をできるようになります。
人に説明するように読み上げる
問題を理解し、覚えるために、人に説明するように解答を声に出して読むことがおススメです。
解答を紙に写して、覚えるという方も多くいると思います。
しかし、「演習で学ぶ有機反応機構」の問題数はすべてで315題あり、毎回紙に書いていると復習回数が減ってしまいます。
そこで、反応の流れを口頭で説明するという方法を採用します。
「演習で学ぶ有機反応機構」の解説には、A: Formation of an imine. などの解説が書かれています。
この解説を、反応スキームを見ただけで解説できるようにすることを目指しましょう。
始めは理解するのに1問15分程度かかるかもしれません。
しかし、問題を繰り返し読み、慣れてくると、5分→3分→1分程度と時間を短くして説明を行うことができるようになります。
すらすらと解答を説明できるようになったら、いよいよ紙に反応機構を紙に書き出します。
紙に解答を書く1回目は、口頭での説明とギャップがあり、上手く再現できないことも多くあります。
しかし、2回目以降はうまく再現できるようになっていきますし、口頭でポイントを抑えているので、苦しまずに解答を書くことができます。
まずは口に出して反応機構を説明できるようになってから、紙に書いて理解できているか確認するという順番で、覚えるようにしましょう。
勉強の工夫
私はいくつかの工夫をすることで、「演習で学ぶ有機反応機構」の内容を覚えることができました。
ポイント
- 通学、通勤中に勉強する
- 問題集にメモをする
通学、通勤中に勉強する
私は電車の中でも、反応機構を勉強していました。
しかし、「演習で学ぶ有機反応機構」自体を毎日持ち運ぶのは、かさばるし少し重いのが難点です。
そこで、問題のみをスマホの写真で撮って、解答できるかどうかを確認していました。
説明できればOKですし、分からなかった場合は家で復習します。
また、問題の反応を覚えるだけでも効果がありますので、全く反応を説明できない場合は、反応式を覚えることに集中していました。
勉強時間を増やすという点で、良い方法だと思います。
問題集にメモをする
解けなかった箇所、わからない言葉などは、問題集に直接メモします。
本を汚すのを嫌う人もいるかと思いますが、効率的に覚えるという目的には、メモ書きが効果的です。
理解できていない言葉は、何度か調べる事になることが多いです。
メモしておく事で、検索の手間を省きましょう。
解き方の工夫
問題が難しい場合の解き方のコツを紹介します。
コツは3点あります。
ポイント
- 炭素に番号を付ける
- 逆から解く
- 脱離する化合物を覚える
炭素に番号を付ける
反応の機構を読み解けない場合、出発原料と生成物に炭素の番号を振ることがおススメです。
原料・生成物の同じ炭素に対して、同じ番号を振るようにします。
特に、転位反応はどのように転位しているか、慣れるまでは見極めるのが困難です。
そこで、炭素に番号を書いておくと、どの炭素がどのように「転位する必要があるのか」が見えるようになります。
難しい問題が、炭素番号を書き込むだけで、自然と解くことができたことが、私自身あります。
逆から解く
数学の証明問題を解く際に、「逆から解く」という経験をしたことがあるのではないでしょうか。
証明したい内容が成立する条件を考え、そのためには何を示すか考えるという思考法です。
反応機構の問題を解く際にも、この発想方が役立ちます。
つまり、生成物のひとつ前の構造を想像することで、反応機構の問題を解くという手法です。
この考え方は、生成物から原料を考えるという逆合成解析にも応用できます。
問題が解けないときのみならず、普段から考える癖をつけることで、有機化学の実力を高めることができます。
脱離する化合物を覚える
反応系中で脱離する化合物、副生する生成物を覚えることも、反応機構を理解するためのコツです。
例えば、Swern参加の場合、DCC由来のウレアと、ジメチルスルフィドが目的物以外に生成します。
これら二つを覚えておくことで、反応機構の流れを覚えやすくなります。
目的物以外にも、脱離する化合物にも注目しましょう。
有機化学の能力を高めよう
「演習で学ぶ有機反応機構」の勉強方法を、私の経験をもとに紹介しました。
私は学生時代にはC問題まで解くことができなかったのですが、社会人になって勉強を再開することで、解答を覚えることができるようになりました。
ぜひ、この記事を参考に、反応機構の勉強をしてください。
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