この記事からわかること
- イミデート化の反応条件
- カラムなしでイミデートを調整する方法
化学メーカーで研究職として働く私(@okamotobiblio)が解説します。
糖合成 必須の中間体
イミデートは糖化学において避けては通れない合成中間体です。
イミデート糖はSchmidtグリコシル化のドナーとして非常に広く使用されています。
また、酸性条件下でのBn化試薬としても使用することができます。
福山本ではB067に掲載されていますね!
イミデート化自体は比較的きれいに進行することが多いです。
分液後に精製せずにグリコシル化することも実際よくあります。
ただし精製せずに次工程へと進めると、イミデート化の原料となるヘミアセタール体が残っている事も多いのも事実。
グリコシル化の際にドナー当量を多く使用する必要(例えば2当量など)がでてきます。
一方で、Bn基など電子供与の保護基を有するイミデート糖は酸に対して不安定であり、カラムはあまりしたくないという実情もあります。
小スケールなら良いですが、スケールが大きくなると、カラムに数時間かかり分解の危険性が高まってしまいます。
プロセス化学的にはカラムは避けておきたいところです。
つまり、
- 不純物生成が少なく反応が完結
- カラム精製不要
上記のようなイミデート化法があれば、プロセス化学的には非常に有用となります。
精製なしでイミデート糖をつくる
精製なしのイミデート化法として、溶媒の選択が重要であるという研究が報告されました。
A Simple Method for the Preparation of Stainless and Highly Pure Trichloroacetimidates
Synlett 2019; 30(11): 1308-1312
イミデート化条件は、Cl3CCN / DBU(cat.) / DCMというのが一般的。
私もイミデート化であれば、この条件を思い浮かべます。
本論文のポイントは、ヘキサン、トルエン、酢酸エチルなどの比較的極性の無い溶媒を用いることがイミデート化に有用であるということです。
これらの溶媒を使うことで、精製なしで高品質のイミデート体を得ることができます。
詳しい機構はわかりませんが、基質が「かろうじて溶ける」溶媒を使うことが重要なようで、5 mg/mL~20 mg/mL程度の溶解度であると丁度良いようです。
実際の仕込み条件は200~300 mg/mLということで、スケールアップを考えると薄いかな、という印象はあります(100 mg/mL程度で仕込むのが理想、薄くても200 mg/mL程度にしたい)。
しかし、複雑糖鎖のグリコシルドナーを調整するのであればアリかなと思います。
複雑糖鎖ということは、合成の後半工程ということですから、精製なしに純度良く目的物を得られる方法は魅力的です。
また、トルエンでも反応が進行するというのも非常に良いと思いました。
イミデート化に続くグリコシル化では、とにかく水が大敵。
グリコシル化を仕込み前には、原料をトルエンに溶かして、濃縮することで水を除去する操作をすることも多いです。
トルエン溶媒で反応が進行するのであれば、トルエンにて分液後、そのまま濃縮するだけで脱水を達成することができます。
作業フロー
ヘキサン溶媒での代表的な作業フローは以下となります。
0 ℃にて反応、分液、乾燥させて濃縮というシンプルなフローですね。
反応は30分から1時間程度で完了するようです。
反応が簡単で使い勝手が良い、そして精製しなくても大丈夫。
ぜひ試したいと思えるイミデート化条件でした。