有機溶媒には、安定剤が含まれているものがあります。
後処理や、精製に、使用した溶媒に含まれている安定剤が残ってしまうことも。
化学メーカーで働いている私も、この様な経験があります。
せっかく精製したのに、NMRやHPLCを見て純度が不十分だと、ショックです。
この記事では、溶媒に含まれている安定剤についてまとめました。
安定剤が残らない精製方法や、溶媒の選択方法を知ることができます。
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参考【プロセス化学】スケールアップ時に選ぶべき溶媒とは?
なぜ安定剤は必要?
安定剤は、有機溶媒の分解を防ぐ目的で使用されます。
ある種の溶媒では、光や酸素、熱などで分解してしまいます。
この分解物は、反応性が高いため、合成した化合物と反応してしまったり、濃縮により爆発の危険があります。
安定剤は、有機溶媒の分解物をトラップすることで、分解物が過剰に発生するのを防いでいます。
安全に実験するために、安定剤は必要なのです。
安定剤が含まれている有機溶媒
安定剤が含まれる溶媒は、主に2種類です。
- エーテル系
- ハロゲン系
エーテル系
エーテルは、熱や光、酸素などにより過酸が発生します。
この過酸は、溶媒の濃縮時に濃度が高まると、爆発の危険性があります。
したがって、この過酸をトラップする安定剤が用いられます。
エーテル系でよく使う溶媒は次の2つです。
- ジエチルエーテル
- THF
どちらの溶媒にも、安定剤としてBHTが用いられます。
BHTは、過酸を発生させるラジカル種を捕捉し、過酸の生成を抑制します。
一方で、UV吸収を持つ化合物ですので、HPLCにおいても検出されてしまいます。
エーテル溶媒を濃縮後、HPLC測定を行った際、不純物がいるなと思ったらBHTだった、ということが起こり得ます。
目的物が固体であれば、安定剤を含まない他の溶媒で洗浄することでBHTを除くことができます。
また、カラム精製によりBHTを除くことが可能です。
ハロゲン系
ハロゲン系溶媒にも安定剤は用いられます。
クロロ系溶媒は光、熱、酸素により、ホスゲンや塩酸を発生させてしまいます。
ホスゲンが発生した場合、実験者の健康面にも影響がある可能性があり、危険です。
したがって、ハロゲン系溶媒にも安定剤が添加されるのです。
塩素系の溶媒には、以下の2つがあります。
- クロロホルム
- ジクロロメタン
安定剤として最も用いられるのは、アミレンです。
エーテルにおけるBHTと同様に、ハロゲン系溶媒の分解により発生するフリーラジカルを、アミレンは捕捉します。
安定剤が含まれている一方で、ジクロロメタンは反応に、クロロホルムはカラム精製や分液などによく用いる溶媒です。
これらの溶媒を使用する場合は、安定剤が残らないか、実験操作を精査する必要があります。
安定剤が残ってしまう操作
後処理や精製に使用する溶媒には、安定剤が含まれているものがあります。
これらの溶媒を用いると、安定剤が残る可能性があります。
安定剤が残る可能性があるのは、溶媒を濃縮する操作がある場合です
カラム精製
カラムに使用した溶媒に安定剤が含まれている場合、目的フラクションを濃縮すると、安定剤が残留してしまいます。
クロロホルムはカラムによく使う溶媒ですが、アミレンが使われている場合は、アミレンが残ってしまうので注意しましょう。
アミレンの代わりに、エタノールが安定剤として使用されているクロロホルムが販売されているので、こちらを使用してください。
ろ過
ろ液に目的物が含まれる場合、ろ過により安定剤が混入する可能性があります。
例えば、Pd/Cによる接触還元の後処理です。
反応終了後、Pd/Cを除くために、セライトろ過をします。
この際、反応にTHFを用いていたり、固体の洗浄にTHFを用いると、ろ液を濃縮した際、安定剤であるBHTが残留します。
THFは水添時に比較的よく使う溶媒であるため、注意が必要です。
安定剤が残らない実験計画を立てよう
安定剤が含まれている溶媒と、暫定剤を残さない処理方法についてまとめました。
エーテル系やハロゲン系の溶媒は、反応、後処理、精製と比較的よく使う溶媒です。
特に、NMRデータを提出する必要がある場合などは、安定剤を使わない操作を事前に計画しておきましょう。
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