化学

【プロセス化学】スケールアップ時に選ぶべき溶媒とは?

岡本さん
プロセス化学的に有用な溶媒ってなんだろう?

この記事からわかること

  • プロセス化学的に有用な溶媒
  • プロセス化学的に適さない溶媒

 

有機合成では、反応と精製時に有機溶媒が用いられます。

有機溶媒の大量の使用は環境への負荷が大きく、できるだけ減らす方が優れています。

 

また、使うのであれば、環境・健康面で悪影響が少ない溶媒を選ばなければなりません。

この記事では、企業でプロセス化学に取り組む私、岡本ビブリオバトルが製造に適した溶媒、適さない溶媒について解説します。

 

参考【注意】安定剤が含まれる有機溶媒と残さないための実験操作

 

 

溶媒の分類

反応には多様な溶媒が使用されます。

その分類方法の一つは物理化学的性質による分類です。

 

この方法では、

  • 非極性溶媒
  • 非プロトン性極性溶媒
  • プロトン性極性溶媒

の3つに分類できます。

 

非極性か極性かどうかは誘電率で決まります。

プロトン性が非プロトン性かどうかは、酸素や窒素などのヘテロ原子に結合した水素があるかどうかで決定されます。

ヘテロ原子に結合した水素がある場合、プロトン性溶媒となります。

 

非極性溶媒

誘電率が低い溶媒が非極性溶媒です。

  • ヘキサン
  • ベンゼン
  • トルエン
  • クロロホルム
  • ジエチルエーテル

などが非極性溶媒です。

 

非プロトン性極性溶媒

誘電率が高く、ヘテロ原子に結合する水素がない溶媒が非プロトン性極性溶媒です。

プロトン性溶媒とは異なり、水素結合を受け入れられないのが特徴です。

 

非プロトン性溶媒には、

  • 酢酸エチル
  • ジクロロメタン
  • THF
  • アセトン
  • アセトニトリル
  • DMF
  • DMSO

などがあります。

 

プロトン性極性溶媒

誘電率が高く、ヘテロ原子に結合した水素が存在する溶媒がプロトン性極性溶媒です。

 

プロトン性溶媒には

  • メタノール
  • エタノール
  • イソプロピルアルコール(IPA)

などが挙げられます。

 

プロセス開発に特に有用な溶媒

反応溶媒は反応収率が高くなる溶媒を選ぶのが基本です。

溶媒によって、反応収率、選択性、反応速度は変化します。

 

それに加えて、環境負荷の少なさや、毒性の少なさ、低コストであること、回収が容易などの特徴も重要です。

ここでは、プロセス開発に特に有用な溶媒を紹介します。

 

酢酸エチル

極性非プロトン性溶媒です。

後処理の抽出溶媒として使用するため、反応と抽出を同一系内で実施できる点がメリットとなります。

安価で毒性が低いのも利点です。

 

酢酸エチル溶媒下、Pd/C条件の水添でニトロ基を還元してアニリン性のアミンへ変換。

さらに酢酸エチル溶媒下でカルボン酸と縮合している例などがあります。

 

強酸性、強塩基性条件では使用できません。

 

アセトン

極性非プロトン性溶媒です。

化合物の溶解性が高く、安価で毒性が低いのもメリットです。

強酸性、強塩基性条件下では使用できません。

洗浄溶媒のイメージが強いと思いますが、製造スケールの溶媒としても利用でします。

 

メタノール

極性プロトン性溶媒です。

水溶性で水に難溶の化合物の補助溶媒としても利用できます。

弱い毒性、引火の危険性があります。

メタノール自体の反応性が高く多くの反応剤と反応するため、反応の選択が重要となります。

 

エタノール

極性プロトン性溶媒です。

メタノールと同様の物理化学的特徴を持ち、かつ毒性はメタノールよりも低いです。

したがって、最終工程の反応・晶析溶媒として利用しやすいというメリットがあります。

 

極性プロトン性溶媒です。

水の混入による反応剤の分解、有機溶媒が溶けにくいなどの問題が起きる場合もありますが、安価で毒性もなくグリーンケミストリーの観点で非常に有用です。

鈴木-宮浦カップリング反応などの遷移金属触媒反応や、相間移動触媒をを利用した反応が近年多く開発されています。

 

プロセス開発に比較的有用な溶媒

ここでは、プロセス開発においてベストではないかもしれませんが、比較的用いる溶媒を紹介します。

トルエン

非極性溶媒です。

有機化合物を比較的に溶かすことができます。

安価で化学的に安定です。

水との共沸脱水にも利用できるのがポイントです。

例えば、反応溶媒と使用した後、同じ系内で抽出溶媒とすることで、濃縮時に水を除去しやすくできます。

分液・濃縮後、水を除く目的で粗体に添加、濃縮することもあります。

 

アセトニトリル

極性非プロトン性溶媒です。

水溶性で化合物の溶解性は優れています。

強酸性、強塩基性条件下では使用できません。

毒性が比較的高いく、高価である点もデメリットです。

経済危機でアセトニトリルが輸入できなくなった話などをよく聞きます。

 

THF

極性非プロトン性溶媒で水溶性です。

溶解性、金属への配位性が高い点が魅力的です。

酸には不安定。

過酸化物を生成しやすく、酸化防止剤が含まれている点に注意です。

酸化防止剤は波長220 nmのHPLCで観測できます。

THF自体が反応する条件は比較的多い印象があります。

私も、THFを使ったら反応してしまった経験があります。

比較的高価です。

 

DMSO

極性非プロトン性溶媒です。

極性が高く、水溶性です。

化合物をよく溶かすため、難溶性の化合物を溶かす目的で利用します。

高沸点であるため、後処理時の除去に工夫が必要となります。

溶媒の回収は困難であり高価なので、使わないに越したことはないです。

 

プロセス開発に望ましくない溶媒

ここではプロセス開発では使用を避ける溶媒を紹介しています。

これらの溶媒でしか反応が進行しない場合などもありますが、残留の可能性がある最終工程では使うべきではありません。

 

ヘキサン

非極性溶媒です。

反応よりは精製時に使用することが多いです。

神経毒性があるのが厄介です。

静電気放電を起こしやすく、特に冬場の乾燥時での作業には注意

代替溶媒としてヘプタンを用いたりもします。

 

ベンゼン

非極性溶媒。

発がん性があるのは有名で独特の芳香があります。

実験室レベルでは使用することがありますが、近年はそれも減ってきたかと思います。

学生時代は使ったことがありますが、企業に入ってからは使ったことはありません。

代替溶媒としてトルエンを使うことが多いです。

 

クロロホルム

非極性溶媒です。

化合物をよく溶かすので抽出溶媒として使用されることがあります。

変異原性があり、環境への負荷も高いです。

カルベンが生じるため、強塩基性では絶対に使ったらだめです。

 

ジクロロメタン

非プロトン性極性溶媒です。

沸点が42℃と低く、環境への放出を防ぐことが困難です。

毒性もあります。

どうしてもジクロロメタンでないと反応が進行しない例もあるが、可能な限り避けるべき溶媒です。

残留溶媒の厳しい管理が求められるため、最終工程ではほぼ使用できません。

求核剤と反応することにも注意です。

 

DMF

非プロトン性極性溶媒です。

化合物の溶解性が高く、高沸点なため高温反応で利用できます。

回収、再利用が困難であり、高価でもあるためプロセス向きではありませんが、実験室レベルではよく使うと思います。

使用するのであれば後処理時の除去に工夫が必要です。

 

(参考文献)

Green chem. 2008, 10, 31

 

プロセス開発に有用な溶媒、望ましくない溶媒についてまとめました。

反応が進行しない溶媒はそもそも選択肢には入りませんが、環境、安全、コストなどの影響もプロセス化学では考慮しなければなりません。

化学的な有用性だけなく、社会とのつながりの中でプロセスを設計するという点で溶媒の選択は重要です。

 

企業のプロセス化学を知りたい場合は、以下の記事も参考になります。

参考【製薬・化学】企業のプロセス化学研究まとめ

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