この記事からわかること
天然物全合成の勉強方法
私(@okamotobiblio)は化学メーカーで有機合成系の研究職として働いています。
学生時代は、天然物の全合成が研究テーマでした。
全合成研究は反応を追いかけて理化するのが初心者には難しく、それに応じた勉強の必要があります。
私も苦労しましたが、自分なりの勉強法で理解できるようになりました。
この記事では全合成のスキームを理解できることを目標に、その勉強法を解説します。
目次
全合成の勉強方法
全合成の研究室に配属された時、研究テーマの関連論文を読みましたが、ちんぷんかんぷんで全然理解できませんでした。
一つ一つの反応を追いかけるのも大変ですし、なぜ、こんな合成法を思いつくのだろうかと、とても不思議だったのです。
全合成を理解できる様になるためには、それに応じた勉強が必要です。
知識があるからこそ、全合成を理解できるようになります。
私は3つの勉強方法を実践しました。
化学メーカー研究職として働く私自身、現在もこの勉強を継続しています。
勉強方法
- 基礎反応を覚える
- 反応機構を覚える
- 全合成スキームを覚える
基礎反応を覚える
複雑な全合成と言っても、そこに含まれる多くの反応は、実は基礎的な反応が選択されます。
数個の鍵反応と、ほとんどの一般的反応から構成されているんですね。
したがって、まずは教科書的な反応、有機化学を理解するのが重要です。
使用するのは、学部の授業で使った教科書で問題ありません。
教科書に掲載されている反応は全て理解、人に説明できる様になりましょう。
学部生であれば、院試の問題を解いてみるのもアリです。
基礎の有機化学の勉強になりますし、天然物の全合成を題材にした問題もあるので、全合成の勉強にはぴったりです。
院試の勉強法については以下の記事で解説しています。
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参考【化学系】旧帝大院試合格のために実践した3ステップ
反応機構の理解
反応機構を学ぶことも、全合成を学ぶ上で重要です。
メカニズムを覚えることで、反応の理解が深まりますし、合成ルートを立てるのにも役立ちまします。
例えば転位反応は反応機構理解の大きなハードルですが、天然物合成を行うためには必須のスキルです。
反応機構を勉強するのであれば、「演習で学ぶ有機反応機構」がオススメです。
大学院レベルから、博士課程の学生や、有機化学を専門とする社会人、研究者にとっても学びのある問題集です。
私も何度も繰り返し説いて、反応機構の考え方を身に着けました。
こちらの記事で、使い方を解説しているので参考にしてください。
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参考【研究開発職が解説】「演習で学ぶ有機反応機構」の使い方
全合成スキームを覚える
有機化学反応の知識が身に付いたら、いよいよ全合成の勉強をしていきます。
最も効果的なのは、全合成スキームを丸ごと覚えてしまうことです。
スキームを覚える手順は以下の通りです。
ポイント
- 論文を選ぶ
- 出発原料と目的物を書く
- スキームを完成させる
論文を選ぶ
まずは自分の研究テーマに関わる全合成論文や、興味のある論文を選びましょう。
学部生であれば、先輩におすすめの論文を教えてもらったり、所属研究室の過去の論文を選ぶのもアリです。
もし論文を選ぶのが難しかったり、研究室に所属前の学生さんが勉強したいとのことでしたら、下の書籍がおススメです。
ここでは、以下の論文を題材にします。
Concise Total Synthesis of Peyssonnoside A
出発原料と目的物を書く
出発原料と最終目的物を書き出します。
合成スキームを覚えるためには、繰り返し反応ルートを書く必要があります。
Chemdrawで書いて、問題用に印刷しておくのがおススメです。
スキームを完成させる
スタートからゴールまで、化合物と使う試薬を含んだ合成スキームを書いてみましょう。
もちろん、すぐには完成することはできません。
特に初心者のうちは難しいと思います。
解答がわからななければ、一度論文を見て丸写ししてみればOKです。
この際、それぞれの反応を理解できているか確認しながら写していきます。
ポイントは、使っている試薬について理解しようとすることです。
同じ種類の反応、目的物を与える反応であっても、試薬の選び方は複数あり得ます。
例えばアミド化であれば、酸クロを使うのか、縮合剤を使うのか。
縮合剤であれば、DCCなのか、HATUなのかなど、なぜこの試薬が使われているのかを考えながら反応を書き進めます。
もちろん、なぜその試薬を使っているのか根拠を見いだせないこともあります。
しかし、反応に対する問いを持つこと自体が、有機化学の実力を高めますので、ぜひ取り組んでみてください。
論文を見て合成ルートを書き写した後は、特徴的な中間体のみを書いて、合成ルートを再現してみます。
この方法であれば、中級者であれば合成スキームを完成させられる人も多いのではないでしょうか。
まだ完成が難しい場合は、自分で再現できるところまで細かく切っていきます。
「中間体あり」の方法で合成ルートを再現できるようになれば、どんどん中間体の数を減らして、最終的に、原料から目的物まで通しで書けるようにします。
スタートからゴールまで再現できるようになれば、その論文は卒業です。
スキームは忘れてしまっても大丈夫
一度覚えた合成スキームも時間が経てば忘れてしまいますが、あまり気にせずに一旦覚えてしまうことが重要です。
そもそも、研究では記憶のみで合成ルートを組み立てることはありません。
必ず類似反応を調査して、目的の反応が進行しそうかどうかを判断します。
しかし、身体で合成ルートを覚えてしまうことには意味があります。
全合成のスキームを丸々覚えてしまうことで、ある種の「センス」が身につくんですね。
全合成の共通言語を身に着けることができるとも言えます。
つめり、どの様な変換方法で、どんな反応条件が好まれるのかがわかるようになるのです。
1つ1つの合成スキームは忘れてしまって問題ないので、10個の論文でこの作業を行ってみましょう。
10回全合成ルートを再現できるようになれば、全合成ルートを学ぶ基礎が身についたと言えます。
また、この方法を繰り返していると、論文とは違う方法で合成できることに気づくこともあります。
それはあなたのオリジナリティとして、ぜひメモをしてストックしておきましょう。
自分で合成ルートを立てる際のヒントになるはずです。
全合成を勉強しよう
天然物全合成の勉強法を解説しました。
教科書的な反応、反応機構の理解ができるようになることが、まず重要です。
そのあとは、論文の合成スキームを再現できるようにしてみましょう。
この方法企業に就職した私も、インプットの方法として継続的に行っていますので、おススメです。
全合成は理解できるようになると、とても面白い学問です。
学生の皆さんは、この機会に全合成を楽しんでください。
全合成の経験を生かして将来働きたいのなら、「アカリク」に登録することがおススメです。
製薬企業や化学メーカーなど、専門性を求める企業が集まっています。
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参考【就活サイト】アカリクを院生におすすめする5つの理由 メーカー研究職が解説