この記事からわかること
- 住友化学が行った蚊帳ビジネスについて
- 化学メーカーがBtoC市場で成功できた理由
住友化学という会社、ご存知でしょうか?
住友化学は財閥系の化学メーカーとして有名ですよね。
実は住友化学にはある興味深い事業があります。
それがアフリカでの蚊帳ビジネス。
- どのようにして川上産業である化学メーカーがBtoC事業を取り組むことになったのか?
- また、日本の伝統企業がアフリカでのビジネスを成功できたポイントは何だったのか?
メーカー研究職として働く私(@okamotobiblio)が考えました。
住友化学のアフリカビジネス
住友化学がアフリカで蚊帳ビジネスを始めるに至った過程を知るために、「日本人ビジネスマン、アフリカで蚊帳を売る」というノンフィクションを読みました。
住友化学のビジネスパーソンたちが、いかにしてケニアで蚊帳を売るようになったのかが描かれています。
アフリカで蚊帳が必要な理由
そもそも、なぜアフリカで蚊帳が必要とされているのでしょうか?
それは蚊帳がマラリアの感染を防ぐのに役立つためです。
マラリアはハマダラカという蚊が媒介する熱病で、アフリカで猛威を振るっています。
WHOの2017年のレポートによると、2億人以上の患者がおり、年間40万人以上が亡くなっているのです。
マラリアに感染しないためには、蚊に刺されないことが重要です。
そこで住友化学が供給しているのが「オリセットネット」という蚊帳なのです。
オリセットネットの誕生
住友化学の伊藤博士が1990年代に開発したのが「オリセットネット」です。
伊藤博士は企業人として研究をしている以上、社会に役立つ商品を作りたいという情熱を持っていました。
その情熱が実を結んだのが「オリセットネット」です。
オリセットネットとはどのような蚊帳なのでしょうか。
実は、住友化学がオリセットネットを開発する以前も、アフリカではハマダラカ対策として蚊帳は使用されてきました。
つまり住友化学は後発のメーカーなんですね。
しかし、特徴的な機能を有しているために、ケニアでトップシェアを取ることができたのです。
その機能は3点あります。
- ポリエチレン樹脂を用いていること
- 樹脂に成分防虫を練りこむことで、徐々に殺虫成分が蚊帳から出ること
- 網目を大きくすることで、アフリカでも風通しよく用いることができること
他の蚊帳の多くはポリエステル製であり、劣化が早く、すぐに穴が開くという問題がありました。
オリセットネットではポリエチレンに変更することで、蚊帳の耐久性を向上させています。
また、既製品では防虫効果のない蚊帳を住人たちが防虫剤で処理することで防虫能力を与えていました。
しかしこの方法は安全性の観点や、手間の観点から問題があります。
最初から防虫成分を練りこんだ蚊帳を販売することで、住民の安全性確保、手間の削減に役立つのです。
ちなみに住友化学は蚊取り線香の成分を殺虫剤として生産しており、世界でもほぼ独占しています。
また、樹脂合成の技術も住友化学は有しています。
- 防虫剤と樹脂という住友化学の既存技術を掛け合わせたこと
- 企業人生の中で世界貢献できる商品を作りたいという伊藤博士の情熱
この2点が組み合わさったことで、オリセットネットは作られたのです。
「オリセットネット」は2001年にWHOに全面推奨製品として認定され、公共入札市場(WHOなどが買い取り、住民に無償配布)で存在感を高めていきます。
小売市場への挑戦
オリネットセットは公共入札市場で年間6000万を生産するまでに成長します。
しかし、公共入札市場は縮小傾向であり、今後発注が少なくなることが予想されることから、2010年台から小売市場へと挑戦することになります。
この挑戦が非常に面白い。
そもそも住友化学は川上の素材メーカーです。
社内でBtoCを経験した人材は皆無。
住友化学はどの様な人材を使って小売市場を成功させたのでしょうか?
実は、外資系出身者や、コンサルタントにオリセットネットの小売市場を任せたのです。
住友化学は殺虫剤成分などの原体を「つくる」という面では自信を持っている会社です。
研究開発、製造など「つくる」ことに関するプロフェッショナル人材を多く抱えています。
一方で、最終製品を販売するための販売網や宣伝ノウハウは皆無ですし、取引先とのしがらみが発生する恐れもあります。
そこで住友化学は、自社出身ではない部外者にこの事業のリーダーシップを渡すことにしたのでした。
この決断が成功のカギとなりました。
オリセットネットのチームはアフリカ特有の生産、流通、マーケティングなどの問題を抱えることになります。
しかし、日本的な住友化学流の考え方にとらわれない人材をこのプロジェクトに登用したことで、それらの課題を解決することに成功します。
オリセットネットのチームは、日本的なメーカーという組織に染まっていない新参者集団であったからこそ、アフリカ小売市場への挑戦と成功が叶ったと言えます。
新規事業を興すときのヒント
住友化学の蚊帳ビジネスの例は、不確定要素が大きい新規ビジネスを立ち上げるときに参考となる情報が多く含まれています。
住友化学の場合、社内と異なる文化を持つ人をリーダーに据えることが、突破力の鍵となりました。
しかし、事業を成功させるためのカギは、もちろんそれだけではありません。
例えば、自分の会社だったらこの様な新規事業を行いたいのなら、誰にサポートを願うのが良いだろうか。
日本の伝統企業ではなくベンチャーで同様の事業を行うとしたら、外資系企業だったら、自分が社長だったら・・・
色々と思考実験することが重要です。
メーカーでの新規事業をシミュレーションするきっかけとして、「日本人ビジネスマン、アフリカで蚊帳を売る」を読んでいただけると嬉しいです。