化学

【塩基を使わない】メチルエステルの選択的脱保護

岡本さん
メチルエステルを脱保護したい。でもアルカリ条件で不安定な置換基がある。良い脱保護方法は無い?

 

カルボン酸の保護基として、メチルエステルは非常にポピュラーなものの一つです。

メチルエステルからカルボン酸にしたい場合、水酸化ナトリウムなどの塩基性条件での加水分解による脱保護が一般的です。

しかし、塩基に不安定な置換基があったり、ペプチドなど塩基で異性化が起きる可能性がある化合物では塩基条件での脱保護ができないこともあります。

 

水酸化リチウムを用いる加水分解は比較的マイルドなので、トラブルなく脱保護できることも多いですが、それでもうまくいかないことも。

 

化学メーカーの研究員として働く私(@okamotobiblio)自身、ペプチドにメチルエステルが含まれている基質に対して、水酸化リチウムによる加水分解を行ったことがありますが、ペプチドが異性化してしまいました。

その際、塩基を使わない脱保護方法を用い、目的物を得ることに成功しました。

 

この記事では、私が実際に試したメチルエステルの脱保護条件を3つ紹介します。

メチルエステルの脱保護で困っている方は、ぜひ試してみてください。

 

 

水酸化トリメチルスズを用いる

Me3SnOHを用いたメチルエステルの脱保護です。

A Mild and Selective Method for the Hydrolysis of Esters with Trimethyltin Hydroxide

K. C. Nicolaou,Anthony A. Estrada,Mark Zak,Sang Hyup Lee Dr.,Brian S. Safina

Angew. Chem. Int. Ed., 2005, 44, 1378–1382. doi: 10.1002/anie.200462207

 

塩基を用いない方法としては、比較的有名な条件です。

本論文を引用している論文も多いので、自分の用いる基質にも適用できるかどうか判断するためのサンプル数が多いこともメリットですね。

 

TESなどのシリル保護基は安定、Fmoc基やBoc基も安定です。

メチルエステルが存在せず、アセチル気が存在する場合は、アセチル基が脱保護されています。

メチルエステルとAc基が共存している場合、選択的にメチルエステルが脱保護されているようです。

また、MeエステルとEtエステル共存下では、完全に選択性が出るわけではありません。

詳細は論文を見ていただきたいですが、比較的適用範囲は広い印象です。

ペプチドに利用しても、異性化を抑えられている点も優れています。

 

反応の仕込み方

原料をdryジクロロエタンに溶かし、Me3SnOH(1~10等量)を添加します。

70~80℃にて数時間攪拌した後、酢酸エチル/塩酸で分液。

濃縮後、精製します。

 

デメリット

毒性の高い「スズ試薬」を使わないといけないということが最大のデメリットです。

 

天然物の全合成など、大学の研究であれば問題無いかもしれませんが、企業ではスズ試薬を使うハードルは高いです。

合成の終盤でどうしてもこの条件でなければ、というのであれば迷いなく使いますが、合成計画段階であれば使わない条件・反応ルートを私は考えます。

 

また、Me3SnOHが比較的高い試薬であることも、企業研究員としては使いづらい理由の1つです。

 

したがって、化合物探索レベルであれば信頼性の高い条件ですが、スケールアップには使えないというのが私の結論です。

 

AlCl3ーDMA条件

塩化アルミニウムとN,N-ジメチルアニリン(DMA)を用いた条件です。

私はこの条件で、ペプチドのメチルエステルを脱保護したことがあります。

 

Alternative and Chemoselective Deprotection of the α-Amino and Carboxy Functions of N-Fmoc-Amino Acid and N-Fmoc-Dipeptide Methyl Esters by Modulation of the Molar Ratio in the AlCl3/N,N-Dimethylaniline Reagent System

Maria Luisa Di Gioia,Antonella Leggio,Adolfo Le Pera,Angelo Liguori,Francesca Perri,Carlo Siciliano

Eur. J. Org. Chem. 2004, 4437– 4441. doi: 10.1002/ejoc.200400321

 

もともとFmoc保護されたペプチドにおいて、メチルエステルを脱保護するために開発された条件であるため、異性化はばっちり抑えられています。

 

メチルエステルとエチルエステル共存下であっても、メチルエステル選択的に脱保護が可能です。

Amide Synthesis by Nickel/Photoredox-Catalyzed Direct Carbamoylation of (Hetero)Aryl Bromides

Nurtalya Alandini, Luca Buzzetti, Gianfranco Favi,Tim Schulte, Lisa Candish, Karl D. Collins, Paolo Melchiorre

Angew.Chem. Int.Ed. 2020, 59 ,5248 –5253 doi: 10.1002/anie.202000224

 

スズ試薬に比べて毒性が抑えらていて、試薬も安いことがメリットです。

 

反応の仕込み方

塩化アルミニウム(5当量)、N,N-ジメチルアニリン(8当量)、dryジクロロメタン溶液に原料を添加します。

還流で終夜撹拌した後、塩酸を加えてで酸性として、ジクロロメタンで複数回抽出します。

有機層を濃縮し、シリカゲルで精製します。

 

デメリット

塩化アルミニウムとDMAの量は比較的多いです。

分液で十分除いておかないと、精製の作業強度が上がってしまいます。

 

また、反応は水酸化トリメチルスズ条件に比べて遅いです。

立体障害が大きい位置にメチルエステルがあると、反応完了まで待ちきれないかもしれません。

 

さらに、Bocが入っている基質で用いたことがありますが、そのときはBocも脱保護されてしまいました。

官能基選択性は、個々の基質で確認する必要がありそうです。

 

ヨウ化リチウム条件

LiIを用いたメチルエステルの脱保護条件も知られています。

 

Synthesis of Fmoc-Protected Amino Alcohols via the Sharpless Asymmetric Aminohydroxylation Reaction Using FmocNHCl as the Nitrogen Source

Ryan Moreira, Matthew Diamandas, and Scott D. Taylor

J. Org. Chem. 2019, 84, 23, 15476–15485 doi: 10.1021/acs.joc.9b02491

 

Fmoc、PMB基存在下でも、選択的に脱保護出来ています。

もちろん、立体を保つことができています。

 

試薬も安く、操作が簡便であるため、とりあえず試すには良い条件であると思います。

 

仕込み方

基質に対し酢酸エチルを溶かし、ヨウ化リチウム(5当量)を加えます。

終夜還流した後、塩酸を加えて分液します。

有機層をを濃縮し、シリカゲルにて精製します。

 

デメリット

還流が必要なことからわかる通り、弱めの条件です。

私が利用した基質は、メチルエステルが比較的かさ高い位置にあったため、十分に脱保護することができませんでした。

 

早速実験してみよう

メチルエステルの脱保護方法として、塩基を用いない3つの条件を紹介しました。

 

ペプチドやα位にキラリティがある化合物、塩基に弱い置換基があるなど、塩基を使いにくい基質に対して用いることができる反応条件です。

それぞれメリット・デメリットがありますので、基質や状況に合わせて、実験してみてください。

 

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