この記事からわかること
実験を成功させるための5つのコツ
大学4年生で研究室配属された理系の学生は、毎日実験に明け暮れているのではないでしょうか。
初心者のうちは、「操作のミスで、実験をもう一度やり直すことになった」など、実験で失敗してしまう人も多いはず。
化学メーカー研究職として働く私(@okamotobiblio)自身、学生の時はよく失敗してやり直し実験を行っていました。
しかし、失敗を分析し、コツを理解したことでスムーズに実験することができるようになりました。
この記事では、有機合成実験の例を中心に、学部、修士の学生の皆さんが実践することで、実験が上手くなる5つのコツを解説します。
目次
実験が上手くなる5つのコツ
私の失敗経験から考え、実践している、実験が上手くなるためのコツは5つあります。
ポイント
- 実験の目的を明確化する
- 実験作業の「意味」を理解する
- よく観察し、記録する
- 分析・解析が先行する
- 実験台、情報の整理整頓をする
実験の目的を明確化する
失敗実験を無くすために最も重要なのは、その実験の目的を明らかにすることです。
鍵反応の検討実験、重要中間体を作るための原料合成、得られた化合物の分析など、実験には各々の目的があります。
その目的を理解して実験を行うことが重要です。
目的に応じて、実験作業内容が異なるためです。
実験目的を理解していなかったために、やり直し実験をした経験が私にもありますし、やり直しをしている人を見たことが何度もあります。
例えば、原料合成であれば、多少ラフな作業でもスピード重視で行った方が良いことが多いでしょう。
一方で、合成検討のテーブル作成が目標なのであれば、各エントリーで揃えないといけない条件に差異がでてしてしまうと、データの信頼性が無くなってしまいます。
高純度品の合成をしないといけないのに、クリーンではない作業環境で実験をしたなども、目的に合致しない実験です。
研究のゴールを理解した上で、今の実験をそもそもやる必要があるのか、この作業手順で問題ないのかなど、見直してみましょう。
実験作業の「意味」を理解する
各々の実験作業の意味を説明できるか、無意味な作業をしていないか確認することも重要です。
作業の「意味」を理解できていないと、無駄な作業をしてしまったり、誤った判断をしてしまうことがあります。
例えば合成実験であれば、
反応仕込み→反応追跡→クエンチ→分液→濃縮→精製→分析
というのが一般的な流れであると思います。
それぞれの作業の意味や、流れを理解して実験できていますか?
1つの例として、反応中間体が存在する反応では、反応追跡の失敗が起こりがちです。
TLCで原料消失を判断して、じつは中間体で止まっていたということがよくあります。
つまり、反応追跡の「意味」を理解できていなかったのです。
この場合、原料消失ではなく、目的物の生成を根拠に反応追跡を行わなければいけませんよね。
あるいは水溶性の不純物が存在せず、クエンチが必要ではないのなら、後処理は反応溶液を濃縮するだけでも問題ないでしょう。
目的物の結晶性が良いのに、シリカゲルカラムを行い、カラム中で結晶化してしまったという失敗も良くあります。
この場合、再結晶などで精製する必要がありますよね。
それぞれの実験作業の目的、その作業は今回の実験に本当にベストなのかを考えることが実験の上達につながります。
よく観察し、記録する
実験科学の基本は、実験系をよく観察することです。
「変化」に着目して観察することで、実験上達や、条件の改善のためのヒントを得ることができます。
反応であれば反応溶液の温度変化や色の変化、発砲があるかなどを観察してみましょう。
これらの情報は、スケールアップ時にも参考になります。
急激に反応温度が上がるのであれば氷冷などの対策が必要ですし、色の変化は再現性の指標になります。
これらの観察結果を記録することも、非常に重要です。
既に学生実験などで、細かい情報の記録をするように指導されているかもしれません。
企業に入ってからも、この様な「実験系で気づいた小さなメモ」の習慣の重要性を感じます。
実験が想定通りの結果を与えなかった場合は、この記録を見ながら考察することになります。
決して記憶を頼りに、研究の考察をすることはありません。
「記録をしていなかった」という失敗は、後から失敗であったと気づくことが難しいです。
一方で、もう一度実験をすることになる可能性が高いミスでもあります。
学生の間に、観察し記録する癖を身につけましょう。
分析・解析が先行する
合成系の研究室の場合、手を動かすのが速くて実験数が多い人が評価される傾向にあります。
しかしここではあえて、合成も重要ですが、分析・解析の重要性をお伝えします。
1つ目のコツ:「実験の目的を理解する」こととも似ていますが、研究の目的に合致しない無意味な実験を増やすことは、失敗であると言えます。
「実験の結果得られた情報を分析し、次に何を行うか考察する」、この手間を惜しまないことが、実験技能を上達させるためのコツです。
笑えない事例ですが、目的物の収率向上検討を行い、最適化した後、よくよく分析すると目的物ではないものを合成していたということを実際に耳にしたことがあります。
MSが一致しているからOKとか、NMRのプロトン数が合っているOKとかいう理由で、判断して失敗してしまう人が実際にいるのです。
この様な例でなくても、副生成物として何が生成しているのか解析することが、反応改善には重要ですよね。
実験の数を増やす事に意識をおいてしまいがちですが、「反応を仕込むよりも分析を優先する」と考えることが、実験上達のコツです。
実験台、情報の整理整頓をする
製造業における仕事の基本は整理整頓であると言われます。
実際、製造業のトップ企業であるトヨタ自動車も整理整頓をとても重視しています。
化学実験の現場でも整理整頓が重要であり、実験上達のコツです。
もちろん、整理ができなくても実験が上手い人はいると思います。
しかし上達するための近道は、整理整頓することであると私は思います。
化学実験室で整理整頓を行う最も重要な理由は、安全性です。
ガラス器具の転倒や試薬の所在が不明など、整理整頓が出来ていないことで失敗してしまう例は多くあります。
事故が起きた際、実験台が整っていないと、被害を拡大させてしまう可能性が高まります。
また、整理されていない実験台では「ガラス器具を倒さないように」とか、「このサンプルなんだっけ」とか、整理されていれば考えなくて良いことに頭を使う必要が出てきます。
これらの思考は、小さなミスを引き起こす要因になり得るため、できるだけ実験台は整理整頓しておく必要があります。
それに加えて、実験データや論文などの情報を整理整頓しておくことも重要です。
論文をいざ書くという際に、データが見つからない、バックアップを取っていなかったとなれば、顔が青ざめるなんていうものではありません。
企業で研究をするのであれば、チームで一つのテーマを共有することも多くあります。
この際、データが整理整頓できていなければ、互いに情報を探し出すことができなくなってしまいます。
企業で研究開発職として働きたいのであば、整理整頓の習慣は必須です。
研究は情報が重要な資本です。
過去の実験例を参考に、新たな実験を組み立てます。
その際、データをすぐに参照できることは重要です。
実験台、情報の整理整頓が実験上達のコツとなるのです。
コツを実践して実験してみよう
実験が上手くなるための5つのコツを紹介しました。
私自身の失敗や、周りの人の失敗から学んだ私なりの方法ですが、これらの方法で実際に実験が上達しました。
実験に失敗してしまい悩んでいる方は、ぜひこの記事の方法を参考にして、研究活動に取り組んでみていください。
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